ファクタリングと良く似た決済手段として電子手形があります。電子手形は通常紙で行われている手形の取引をコンピューターやFAXで利用できる決済手段で、インターネットを使って決済できるファクタリングと利用者の使い勝手が似ているために混同されがちです。
本記事ではファクタリングと電子手形のメリット・デメリットについて説明します。
【電子手形がなぜファクタリングと似ているのか】
まずはどのような点で電子取引とファクタリングが似ているのかについて説明します。電子手形は、従来紙媒体で発行していたデータを、コンピューター上のデータとして取り扱う手形で、債務者としては便利です。
手形をいちいち発行して送る必要がありませんし、期日管理の手間も削減できます。よって、電子手形で決済をしている会社の中には、発注者に言われるままに電子手形で決済をしているという会社も少なくないと考えられます。
電子手形を受け取った債権者は、手形の期日が来るまで手形を現金化する事はできませんが、手数料を支払えば期日前でも手形を現金化する事が可能です。
この手続きは法的には手形割引ですが、債権の支払期日前に手数料を支払って現金化するという行為はファクタリングのようにも思えます。
特に一括ファクタリングの場合はその債務者との売掛金は全て一括ファクタリングサービスを提供している銀行経由でシステムを利用しているので、今銀行とやりとりしている債権は電子手形なのかファクタリングなのかという事を強く意識する事はありません。
このような理由から電子手形とファクタリングは混同されがちです。しかし、両者は法的にはまったくの別物です。両者の違いについて説明していきます。
【電子手形とファクタリングした債権の法的な違い】
まずは法的な性質について説明します。電子手形は法的には電子記録債券、ファクタリングした債権は売掛債権に分類されます。
電子債権は2008年12月に電子記録債権法が成立したことによって誕生した新しい債権です。従来の手形は作成や期日管理や流通に手間もコストも掛かっていました。
更に、一度手形を発行すると、手形が盗難や紛失に合った場合の手続きに手間がかかりますし、発行した手形を分割して一部だけを裏書譲渡したり現金化したりする事はできませんでした。
このような従来の手形のデメリットを補完するために誕生したのが電子記録債権です。電子記録債権では従来紙媒体で流通していた手形を電子化することによってインターネットを通じて流通させられるようになりました。
これにより従来手形の発行や流通に必要なコストを削減し、データなので盗難や紛失のリスクも無く、手形を分割することも可能になりました。
一方で、ファクタリングの対象となる債権は売掛債権と呼ばれるものでどのような媒体になっているかはケースバイケースです。紙媒体の契約書に代金をいつ払うのかという売掛金の約束が書かれているかもしれませんし、メールや電話で支払い期日や代金を約束しているかもしれません。
ファクタリング会社としては書面に残っていない売掛債権をファクタリングする事は困難ですが、売掛金の契約は口約束だけでも有効に成立します。
ちなみに、ファクタリングなどに用いられる売掛金をコンピューター上の債権として電子記録債権化して流通させる事も可能です。ただし、手形の電子記録債権と売掛金の電子記録債権ではそもそもの債権の性質が違うので注意してください。
【手形が落ちない、売掛金が回収できない場合のリスクについて】
まず、大きな違いとして挙げられるのが、債権が回収できなかった場合の債権者のリスクです。債権を回収できなかった場合に、債権者に債権の買い取りを求める事ができる権利の事を償還請求権やリコースと呼びます。
一般的にファクタリング契約の場合はノンリコース契約、手形割引の際の契約はウィズリコース契約が結ばれます。
つまり、売掛債権をファクタリングした場合はファクタリング会社が取引先から債権を回収できなくても利用者は何の保障も行う必要が無いのに対して、電子手形を手形割引した場合は手形割引会社が手形の発行者から債権を回収できなければ利用者は取引先に代わってその代金を支払う必要があります。
この2つの違いは大きく、電子手形の手形割引か売掛債権のファクタリングかによって利用者のリスクはまったく異なりますので注意してください。
【電子手形は裏書譲渡が可能】
電子手形は通常の手形と同様に裏書譲渡が可能で、これはファクタリングと比較した時にメリットとなります。裏書譲渡とは自社の保有している手形を他社との決済などで他人に譲る事ですが、手形を電子化してもこの裏書譲渡は行う事が可能です。
特に電子化した手形はさきほど説明したように分割可能です。よって、通常の紙の手形ではできない手形を分割しての裏書譲渡も可能です。
例えば、保有している100万円分の紙の手形について150万円分の支払いの100万円分として手形を裏書譲渡する事は可能ですが、50万円分だけを他社に譲渡する事は紙の手形では不可能です。
しかし、電子手形なら100万分の手形から50万円分を分割して裏書譲渡する事が可能です。
一方でファクタリングの場合は売掛債権を自由に他社の支払いに使う事はできません。他社への支払いに対して売掛債権を充当するという事はできないので、ファクタリング会社に買い取って貰って現金化して支払いするしかありません。
【電子手形の不渡りは倒産の原因になりうる】
ただし、電子手形はあくまでも手形の一種ですので不渡りを出した場合は会社が倒産する可能性があります。通常、半年に2回不渡りを出すと銀行との取引が2年間停止となり、上場企業は上場廃止となります。
そして実質的に1回でも不渡りを出すと銀行との取引が難しくなるので、現実的には電子手形で1回でも不渡りを発生させると会社が倒産する可能性が高くなってしまいます。
一方でファクタリングされた債権をファクタリング会社に支払えない場合でもこのように倒産するリスクは少ないと言えます。
取引先ではなくファクタリング会社がリスケや減額交渉に当たるので、交渉は難航すると考えられますが支払えなくても銀行との取引が停止されたり強制的に徴収されたりするわけではありません。
裁判の確定判決などがあれば、強制執行が行われて、強制的に支払わされる可能性があるかもしれませんが、確定判決ができるまでには時間もかかります。
このような理由から、債務者にとって代金を支払えなかった場合のリスクは電子債権のほうが高いと言えます。
【ファクタリングと電子手形の違いについてまとめ】
以上のように電子手形とファクタリングの違いについて説明してきました。電子決済サービスと一括ファクタリングのようにシステムを介して行うファクタリングは利用者にとってほとんど同じようなものに思えます。
ただし、電子手形は手形が電子記録債権になったもの、ファクタリングは売掛債権を売却するものなので両者は法的にはまったく別物です。
債権者にとって大きな違いは、電子手形を手形割引する場合は債権者が債務保証する必要がありますし、売掛債権をファクタリングする場合は債務保証をする必要がありません。
また電子手形は分割して他社への支払いに充当する事が可能ですが、売掛債権の場合は他社への支払いに充当できません。
債務者にとっての違いは支払いができなかった場合のリスクです。電子手形は手形の一種なので1回でも不渡りを起こしてしまえば今後の銀行取引に支障をきたします。
一方で、ファクタリングの場合はリスケ・減額交渉は厳しくなりますが、代金が支払えない事によって即倒産に繋がるペナルティーが発生するわけではありません。
両者のメリット・デメリットを意識した上で、電子手形とファクタリングを使い分けた方が良いでしょう。